迷惑防止条例と刑法上の性犯罪の違い:適用範囲と判例分析
性犯罪いわゆる、痴漢行為を取り締まる法律は、迷惑防止条例と刑法の不同意わいせつ罪の二つがあります。
どちらに該当するのかにより、刑罰の内容や刑事手続き、逮捕・起訴のされやすさも異なります。
迷惑防止条例と刑法上の性犯罪の違いについて、判例の傾向をもとに解説します。
目次
痴漢とは
刑法には、痴漢罪という犯罪類型はありません。
痴漢と呼ばれる行為は、都道府県の迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつのいずれかに該当します。
痴漢で逮捕される場合は、このどちらかに該当します。
迷惑防止条例とは
迷惑防止条例は、都道府県ごとに定められています。
痴漢行為についても規定が設けられていて、千葉県の場合は、次のように定められています。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第三条
2 何人も、女子に対し、公共の場所又は公共の乗物において、女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も、同様とする。
(罰則)
第十三条 第三条第二項又は第十一条の規定のいずれかに違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 常習として第三条第二項又は第十一条の規定のいずれかに違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
「女子を著しくしゆう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動」をした場合は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金。
常習性がある場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるということです。
刑法上の不同意わいせつ
不同意わいせつは、刑法176条に規定が設けられていますが、被害者を次のような状況に陥らせたうえで、同意できない状況の下でわいせつ行為をした場合に成立します。
- ・暴行・脅迫を行う。
- ・心身の障害を生じさせる。
- ・アルコール若しくは薬物を摂取させる。
- ・睡眠状態に陥らせる。
- ・意思を表示する暇も与えない。
- ・フリーズの状態に陥らせる。
- ・虐待等を行う。
- ・経済的又は社会的関係上の地位を利用して抵抗できなくする。
不同意わいせつの法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑とされています。
罰金刑で済まされることはないことから重い犯罪に該当します。
迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつの違い
都道府県の迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつの違いは次の3点です。
法定刑の違い
不同意わいせつの法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑となっており、全国どこでも同じです。
一方、迷惑防止条例の刑罰は、都道府県ごとに異なりますが、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金と刑法の刑罰よりも軽くなっています。
起訴された場合の裁判手続きの違い
迷惑防止条例は、6月以下の懲役となっていますが、実際には罰金刑に処せられるケースが大半です。
そのため、起訴されたとしても、地方裁判所の法廷ではなく、簡易裁判所において、検察官の提出した書面により審査する裁判手続が取られることが多いです。
これを略式裁判、略式起訴と言います。
略式裁判、略式起訴は、被告人が同意した場合のみ認められており、不服がある場合には正式裁判を申し立てることも可能です。
一方、刑法上の不同意わいせつで起訴された場合は、罰金刑で済ませることはできないため、公判となり、地方裁判所の法廷で通常の裁判手続きが進められます。
逮捕率の違い
迷惑防止条例違反の場合は、刑罰が軽いこともあり、犯人とされている人が罪を認めていれば逮捕されにくいです。
一方、不同意わいせつは重い犯罪なので、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあるとして、逮捕されやすくなります。
痴漢行為は迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつのどちらに該当するのか?
痴漢行為は、迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつのどちらにも該当し得ます。
ただ、痴漢行為の程度により、どちらに該当するのかは異なります。
迷惑防止条例違反の痴漢行為
迷惑防止条例違反の痴漢行為は、「着衣の上から触った」場合とされています。
例えば、女性の下半身に触れる行為であれば、スカートの上から触ったケースであれば、迷惑防止条例違反となることが多いです。
不同意わいせつに当たる痴漢行為
不同意わいせつに当たる痴漢行為は、「着衣の中から触った」場合とされています。
例えば、女性の下半身に触れる行為だと、スカートをめくって手を入れているケースや下着の中にも手を入れて、肌に直接触れているような場合です。
スカートをめくる行為は、暴行と解釈されるためです。
また、「着衣の上から触った」ケースでも、被害者がフリーズしていたり、長時間執拗に触り続けたり、突然抱きついた場合は、不同意わいせつに該当します。
被害者の年齢による違い
刑法176条3項の規定により、16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者は、不同意わいせつに該当するのが原則とされています。
つまり、被害者の年齢次第では、「着衣の上から触った」ケースでも、不同意わいせつになります。
痴漢行為の弁護活動
痴漢行為の加害者になった場合は、迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつのどちらに該当するかにより、刑事手続や刑罰の内容も異なります。
警察が不同意わいせつの容疑で逮捕しようとしているケースでも、弁護士がチェックすると迷惑防止条例の範疇と考えられることもあります。
このような場合は、判例も踏まえた上で、捜査機関に申し入れを行う必要があります。
迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつのどちらに該当するのかは、判例も踏まえた精密な検討が必要になるため、痴漢犯罪に詳しい弁護士に相談することが大切です。
痴漢行為をした覚えがない場合
痴漢は、冤罪も多い犯罪です。
たまたま、手を触れてしまっただけだとか、そもそも、触ってもいないのに痴漢と名指しされてしまうこともあります。
このような場合、警察も被害者側の言い分を聞き、加害者とされた人の言い分は信用されず、結果として冤罪に巻き込まれてしまうことがあります。
痴漢には冤罪もあることは、裁判所も熟知しており、被害者の証言のみを信用すべきではないとするのが判例の傾向になっています。
特に、証拠が被害者の証言のみである場合は、被害者の証言を精密に分析したうえで、矛盾点をついていくと言った形で、その証言を覆すことも可能です。
早期に弁護士に相談することにより、痴漢冤罪に巻き込まれることを防ぐことができます。
まとめ
痴漢行為が、迷惑防止条例と刑法上の不同意わいせつのどちらに該当するのかは、かなり微妙な問題なので、警察が不同意わいせつと主張している場合でも、犯行の態様次第では、迷惑防止条例違反に過ぎないこともあります。
どちらに該当するのかは、判例も踏まえた詳細な検討が必要なので、痴漢の疑いをかけられた場合は、早めに弁護士に相談してください。