覚せい剤
1 覚醒剤取締法
覚醒剤に関する罪は、刑法ではなく覚醒剤取締法によって取り締まられています。
⑴ 覚醒剤
同法2条より、覚醒剤とは以下のものを指します。
- ・フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
- ・上記と同種の覚醒作用を有する物であって政令で指定するもの
- ・上記二者のいずれかを含有する物
俗にシャブ、スピード、アイスと呼ばれているものです。
⑵ 犯罪の内容と刑罰
覚醒剤取締法で禁止されている行為とそれぞれの刑罰は以下のとおりです。
営利目的なし | 営利目的あり | |
---|---|---|
使用 | 10年以下の懲役 | 1年から20年の懲役 又は、 情状により懲役と500万円以下の罰金を併科 |
所持 | ||
譲渡・譲受 | ||
輸出・輸入 | 1年から20年の懲役 | 3年から20年の懲役又は無期懲役 又は、 情状により懲役と1000万円以下の罰金を併科 |
製造 |
覚醒剤に関わるほとんどの行為が刑罰の対象です。覚醒剤と明かされず知人から預かっていただけでも逮捕されるおそれがあります。
また、営利目的がある場合には刑が重くなり、輸出・輸入・製造については無期懲役刑もあり得るなど、極めて厳しい犯罪類型であることがわかります。
2 逮捕の経緯
覚せい剤事件では、ほとんどの場合が現行犯逮捕です。
⑴ 現行犯逮捕
警察官による職務質問や所持品検査の際、不審な粉末が発見されると覚醒剤の予試験や尿の簡易検査が実施され、陽性反応が出ればその場で現行犯逮捕されます。
また、別事件の捜索差押令状による家宅捜索中に不審物が発見された場合にも、検査等の結果によっては現行犯逮捕されることがあります。
⑵ 通常逮捕
もちろん、通常逮捕の場合もあります。
共犯者の供述、覚醒剤密売人の携帯電話の受発信履歴、宅配便の配達記録など、捜査機関が集めた情報よって被疑者が特定された場合には、裁判所から発布された逮捕令状に基づき通常逮捕されます。
3 覚醒剤事件の特徴
覚醒剤事件は、他の犯罪と比べて以下の特徴があります。
⑴ 物的証拠がある
覚醒剤所持であれば現に所持していた覚醒剤が押収され、使用であれば尿検査等により覚醒剤成分が検出されます。犯罪事実を示す客観的な証拠がある以上、これを覆すのは極めて困難です。
⑵ 起訴される傾向
他の薬物と比べると依存性が高いため再犯が多いこと、また反社会的勢力の資金源になっていることから厳しい処分が行われており、原則起訴されると考えてよいでしょう。令和2年版犯罪白書によると、令和元年中に発生した覚醒剤事件における起訴率は75.7%と極めて高く、初犯といえども起訴猶予は期待できない状況です。
⑶ 実刑になる可能性が高い
起訴されれば他の犯罪同様、ほぼ100%の確率で有罪となりますが、刑の執行については特徴があります。
令和元年の実刑率(全部実刑率、一部執行猶予率を合算したもの)は、大麻取締法違反事件は14.1%、麻薬取締法違反事件は21.4%であるのに対し、覚醒剤事件では62.9%となっており、実刑率の高さが目立ちます。なお、一部執行猶予はあくまでも実刑の一部です。
執行猶予が付くのは、営利目的のない所持や使用で、初犯であり、かつ所持量が少ないという場合に限定されます。薬物犯罪の前科があれば執行猶予が付かないことが多く、覚醒剤事件の前科がある場合には、執行猶予付き判決はまずありません。
⑷ 被害者がいない
被害者がいないことも特徴の1つです。刑事手続きでは被害者対応が処分や判決に大きく作用しますが、被害者がいなければ「示談したから処分が軽くなる」ということもありません。このことが起訴猶予や執行猶予の獲得を難しくする要因にもなっています。
4 弁護方針
⑴ 所持・使用の場合
「物的証拠があり有罪が確実である以上、起訴は免れ得ない」のが特徴である覚醒剤所持・使用事件では、執行猶予付き判決の獲得を基本とした弁護活動を行います。
①薬物からの離脱
覚醒剤は依存性が高く、離脱は容易ではありませんが、完全に離脱することが真の更生には不可欠であると同時に、執行猶予獲得にも有利に作用します。その際、ご自身の「絶対に克服する」「二度と薬物には手を出さない」という強い意志はもちろん必要ですが、それを実現する環境作りが非常に大切です。たとえば、薬物専門の医療機関での加療や、回復支援施設(DARC等)への入所など、薬物依存から脱却できるような積極的な取り組みが必要です。また、ご家族にも生活一般の監督をご協力いただきます。これらの診断書や証明書、誓約書を裁判官に提出することで、今後の改善更生をアピールしていきます。
また、入手ルートは包み隠さず裁判官に打ち明ける、覚醒剤絡み集団とは今後一切関わらないよう環境を整備するなど、社会の中での更生可能性を印象付けることで執行猶予の獲得を目指します。
②反省の情を示す
反省を示すには薬物からの完全な離脱が最も有効ですが、贖罪寄付によって反省の情を示すこともできます。贖罪寄付の寄付先や寄付行為が有利な情状として作用するかについては、事案に応じて弁護士がアドバイスします。
③違法捜査への抗議
第三者による目撃証言などの供述証拠が少ない反面、薬剤や使用器具、尿中覚醒剤成分等の客観証拠が出やすいため、捜査機関による行き過ぎた捜査が行われる傾向があります。
弁護士が接見等を通じて違法捜査がなかったかを、まずは念入りに検証します。かりに違法捜査の事実を認めた場合には、捜査機関に対して厳重に抗議するとともに、裁判官に対しては違法捜査で得られた証拠は採用しないよう求めます。
⑵ 営利目的の輸出・輸入・製造の場合
営利目的の輸出・輸入・製造には無期懲役刑があるため、裁判員裁判が行われます。
裁判員裁判では連日の集中審理を行うため、事前の入念な事前準備が不可欠です。そこで、裁判所・検察官・弁護人の3者間によるが公判前整理手続が義務付けられています。
この公判前整理手続で提出した証拠以外の証拠を追加して審理に持ち込むことは原則として禁じられているため、弁護人は何が有利な証拠となるのかを慎重に見極めた上で、筋の通った主張構造に整える必要があります。その際には、検察官の手持ち証拠にどのようなものがあるかを知識や経験によって推測した上で、有益かつ多数の証拠開示を求めていくことに注力します。
5 まとめ
弁護士の仕事は、不起訴や無罪判決を獲得することだけではありません。ご依頼主様が薬物依存から脱却して健康を取り戻し、胸を張って社会に復帰できるようにサポート
できればと考えています。
逮捕された場合はもちろん、薬物依存から抜け出すきっかけをお探しの方は、津田沼法律事務所の弁護士までご相談ください。