示談
1 示談とは
示談とは、民事上の責任を当事者の話し合いによって解決することをいいます。損害賠償金や迷惑料、慰謝料の支払いといった民事上の責任について被害者・加害者が双方の合意の下で決めるものであり、警察や検察による刑事手続き、裁判所による処罰とは次元が異なります。
しかし、示談の成立が、逮捕、起訴、そして量刑判断の各場面において大きく影響することがあります。
2 示談の効果
示談が成立したという事実は、以下の場面で考慮されます。
⑴ 逮捕・勾留
犯罪後逮捕される前に被害者との示談が成立すれば、警察沙汰にはならず、逮捕を回避できることがあります。
警察はさまざまな方法で犯罪を探知し捜査を行いますが、その中に被害届の提出と告訴があります。逮捕される前に示談が成立しておれば、被害者に被害届の提出や告訴を見送ってもらうことが期待でき、その結果、逮捕を回避することができます。
また、示談が成立しておれば逮捕後であっても、証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを理由に勾留されない可能性もあります。
⑵ 起訴
検察官が起訴するかどうかを判断する際、示談の成立は重要な資料となります。公訴権を独占する検察官は、いわば被害者に代わって起訴する立場にあり、その被害者が「処罰を求めない」「許す」という意思をもつに至った場合には考慮せざるを得ないからです。
また、器物損壊罪や名誉棄損罪などの親告罪では、告訴取下げを内容とする示談が成立した場合には、必ず不起訴となります。
⑶ 量刑
刑事裁判においても示談の成立が考慮されます。示談の成立によって被告人が犯罪事実や被害者と真摯に向き合い心から悔い改めていると評価されれば、社会内で改善更生を期待できるとして、執行猶予の可能性が高まります。
また、実刑であっても、量刑判断に際しては被害回復の程度や被害者の処罰感情が重視されるため、示談の成立を理由に量刑が軽くなる可能性があります。
3 示談のタイミング
手続きのさまざまな場面で影響を与える示談ですが、どのタイミングで示談を成立させておくべきでしょうか?
⑴ できるだけ早く
量刑判断に影響することから、最終的には刑が確定するまで示談を成立させればよいことになりますが、早ければ早いほど得られる利益も大きくなります。たとえば逮捕前であれば、逮捕、勾留、起訴、判決のすべての場面で有利に働き得るのです。
しかし、実際には犯罪後逮捕前に示談が成立するケースは多くありません。
そこで、少なくとも起訴される前には示談を成立させるとよいでしょう。起訴されるとほぼ100%の確率で有罪になる我が国の現状からすると、不起訴を獲得して「前科」が付くことを回避する必要があるからです。
検察官による起訴は早ければ逮捕から3日後、遅くとも23日以内に行われます。このように限られた時間の中で手続きは進行していくため、逮捕後はただちに示談成立に向けて行動しなければなりません。
⑵ 在宅事件での注意
逮捕勾留される身柄事件の起訴には上記のような時間制限がありますが、逮捕されない、または、逮捕後身柄が解放される在宅事件については、起訴の時期に決まりはありません。
身柄拘束されず、日常生活を送りながら時折検察官に呼ばれて取り調べを受けるという在宅事件では、緊張感を欠いて示談も後回しになりがちです。
しかし、起訴される可能性はある以上、在宅事件であっても示談交渉は早めに開始するのがよいでしょう。
4 示談の注意点
では、具体的に示談を成立させるにあたってどのような点に注意すればよいのでしょうか?
⑴ 弁護士による示談
在宅事件では本人が、身柄事件では家族が本人に代わって示談交渉をすることも考えられますが得策とはいえず、弁護士に任せることをお勧めします。理由は次のとおりです。
①被害者が応じないおそれ
痴漢などの犯罪では、警察や検察は被害者が了承しない限り加害者側に被害者の連絡先を教えることができません。連絡先を知らなければ示談交渉も何もないのです。
これに対して、弁護士であれば加害者に連絡先を教えないことを条件に被害者から了承を得て連絡先を知ることが可能です。
また、連絡先を知っている場合でも、被害者が加害者側と会うことに好意的でないのが通常です。
しかし、第三者的立場にある弁護士からの謝罪や示談であれば、冷静に応じてもらえることが少なくありません。厳しい職業倫理や社会的信頼を背景に、弁護士が誠意をもって交渉にあたることで示談成立へと繋げていきます。
②法的リスクを回避する
示談をめぐっては、「条件について対立がある」、「示談成立後に追加請求を受けた」、「告訴の取り下げが条件だったのに、実際に取り下げたのは起訴後だった」といったトラブルが生じるおそれがあります。
示談も契約の一種であることから、契約の専門家である弁護士に契約内容や契約書の作成さらに履行に至るまでを任せることで、法的リスクの回避が期待できます。
⑵ 謝意を尽くす
示談は被害者の意思に反しては成立しません。うわべだけの謝罪は見透かされるおそれがあります。交渉には弁護士だけが臨んで通常は加害者が被害者に直接面会することはありませんが、弁護士へ謝罪文を託すなどして心からの謝罪を表すことも重要です。
また、示談金全額を一括に支払うことが困難な場合には分割払いをお願いするという方法があります。全額弁済を終えなければ被害を回復したことにはなりませんが、まったく支払わないよりかは誠意を示すことができます。その場合には頭金を大きく支払うなど、「本当に支払うのか」という被害者の不安を和らげる努力を忘れてはいけません。
5 まとめ
示談は刑事手続きの多くの場面で考慮され、早いほど得られる利益も大きくなります。しかし、被害者と加害者の示談は容易なものではありません。刑事事件の示談交渉をお考えの方は、実績豊富な津田沼法律事務所にご相談ください。