逮捕されそう
「逮捕されてから弁護士に相談」というのが一般的ですが、むしろ逮捕される前の弁護活動が、その後の手続きや処分に極めて有利に作用します。
本記事では逮捕に至る経緯や前兆をまず確認し、逮捕前の具体的な弁護活動について解説していきます。
1 逮捕に至る経緯
⑴ 捜査の端緒
捜査機関が「犯罪があると思料するとき」に捜査が開始されます。その「思慮する」きっかけとなる事情として、以下のものがあります。
- ・被害者による被害届、告訴
- ・第三者による告発
- ・職務質問
- ・自動車検問
- ・現行犯逮捕
- ・自首
- ・検視
- ・警ら
- ・マスコミ報道やインターネット上の情報 など
これら以外にも、他事件の捜査に関連して犯罪事実が発覚した場合に捜査が開始されることもあります。
もっとも、犯罪があると思料すれば必ず捜査を開始しなければならないわけではなく、実際に捜査を開始するかどうかは、事件の重大性や社会に及ぼす影響などから捜査機関の合理的な判断にゆだねられています。
⑵ 逮捕の要件
逮捕には現行犯逮捕、緊急逮捕、そして通常逮捕の3種類があります。それぞれ細かな手続きや要件が法律で定められていますが、共通するのが「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」を要件とすることです。
逮捕の必要性=証拠隠滅や逃亡のおそれがあること(刑事訴訟規則143条の3)
身柄の拘束という強い効果を持つ逮捕は、その理由と必要性の両方が揃わないと認められません。たとえ犯罪事実が明らかであっても、証拠隠滅や逃亡のおそれがない事案では、逮捕の必要性がないことを理由に逮捕はされず在宅捜査として扱われます。
犯罪白書が公表している統計に「身柄率」があります。警察に逮捕され身柄付きで送検、及び検察庁に逮捕された人員の比率のことですが、令和元年の刑法犯(過失運転致死傷等及び道交違反を除く)における身柄率は35.7%となっており、決して高くありません。このように逮捕は厳正かつ慎重に行われる処分なのです。
⑶ 逮捕される前兆
捜査機関が逮捕の予告をすることは、まずありません。証拠隠滅や逃亡のおそれがあるからです。
しかし、次のような逮捕の前触れのようなものはあります。
①警察から話を聞きたいと連絡がある
いきなり逮捕するのではなく、警察署への任意同行や任意出頭を求められること
があります。通常は訪問してきた警察官が「署まで同行してほしい」と口頭で伝えたり、電話で「来てほしい」と連絡があったりしますが、ハガキや封書による連絡もあります。警察から事情聴取されることは「逮捕の可能性がある」ことを意味するのですが、逮捕自体の事前連絡ではありません。
任意同行、任意出頭の いずれも「任意」であることから、拒否することは可能で
り、また、応じた後もいつでも退去することができます。ただし、拒んだ場合には証拠隠滅や逃亡を疑われ直ちに逮捕される可能性があります。
②家宅捜索を受ける
逮捕とは別に、捜索・差押えが行われることがあります。
捜索・差押えは犯罪に関する証拠を強制的に探し出しこれを確保する処分であって、逮捕とは別の手続きです。その要件も逮捕と比べると緩やかに定められており、逮捕されていないのに捜索・差押えが行われることもありえます。捜索差押許可状の発布に際しては、捜査上の必要性を明らかにして捜索すべき場所や押収すべき物を特定しなくてはならず、この許可状が出ていること自体、捜査が相当程度進んでいることを意味します。
突如、捜索差押許可状をもった捜査官たちが踏み込んできて段ボール箱数個分の荷物を持ち帰ってしまった、という状況になって初めて逮捕の可能性に気づくことになります。
③予告や前触れなく突然逮捕される
ほとんどの場合、何の前触れもなく突然逮捕されます。逮捕が被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための処分である以上、予告されないのは当然です。「逮捕の予告がない」「逮捕される気配がない」と安易に考えていると、予想外に逮捕されてしまうかもしれません。
2 逮捕されるか不安な人は弁護士に相談を
逮捕されるかどうか不安な場合にはできるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。弁護士だからこそできる逮捕前の活動が幅広くあります。
⑴ 今後の見通しを立てる
まず、警察から呼び出しを受けた時点で、被疑者(犯罪の嫌疑を受けて捜査対象となっている者)か、または参考人(被疑者以外で事件について知っている者)かを確認し、それぞれに応じた対処を行います。
単なる参考人であれば、それ以降も疑いをかけられないための対処を行います。逆に被疑者として嫌疑をかけられているのであれば、さまざまな証拠に基づいて嫌疑を晴らして逮捕されることを未然に防ぎ、また違法・不当な強制手続きを受けないように牽制することができます。
さらに、実際に逮捕された後の対応もあらかじめ決めておきます。接見の頻度や具体的な弁護方針についてです。
自首をお考えの方には、捜査状況から見て自首が成立するかどうかもアドバイスします。
⑵ 任意同行・任意出頭に付き添う
警察署に任意同行・任意出頭する際には弁護士が付き添い、許可されれば事情聴取に弁護士が同席します。許可されない場合でも、弁護士が警察署まで付き添うことで警察からの対応が改善されることがあります。
事情聴取にあたっては取調べの流れをあらかじめ説明し、事実と異なる供述は決してしないことや回答に困ったときの具体的な対応についてもアドバイスします。
⑶ 示談による逮捕回避
被害者がいる犯罪では示談を行うことで逮捕を回避できることがあります。逮捕されるかもしれないと不安をお感じの方に代わって弁護士が交渉を行い、告訴をした被害者にはその取り下げをお願いします。また告訴がなかった場合でも、示談が成立した旨の意見書を警察に提出することで逮捕の回避を目指します。
3 まとめ
逮捕はすべての事件について行われるわけではありませんが、被疑者にとって苦難であることに間違いなく、誰しもが避けたいはずです。しかし、たとえ逮捕されなかったとしても安穏としていてはいけません。起訴され、裁判となれば、刑罰というさらに大きな苦難があります。
「逮捕されないように」「起訴されないように」「実刑を受けないように」、これらの活動は逮捕前からスタートする必要があります。逮捕されそうとご不安の方は、津田沼法律事務所にぜひご連絡ください。