大麻
1 大麻取締法
大麻は刑法でなく、大麻取締法によって規制されています。
⑴ 大麻
「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいいます。いわゆる「マリファナ」「ハシッシュ」と呼ばれているものです。
ただし、幻覚症状を引き起こす有害成分がほとんど含まれない大麻草の成熟した茎とその製品(樹脂を除く)、並びに大麻草の種子とその製品は除きます。
⑵ 犯罪の内容と刑罰
大麻取締法で禁止されている行為とそれぞれの刑罰は以下のとおりです。
営利目的なし | 営利目的あり | |
---|---|---|
所持 | 5年以下の懲役 | 7年以下の懲役 又は、 情状により懲役と200万円以下の罰金を併科 |
譲渡・譲受 | ||
栽培 | 7年以下の懲役 | 10年以下の懲役 又は、 情状により懲役と300万円以下の罰金を併科 |
輸入・輸出 |
大麻の場合は、覚せい剤と異なり、使用自体は処罰されません。日本では古くから大麻草の栽培や利用が行われており、衣服や食品からも大麻成分が検出されることがあること、また、これらが体内に入った場合には有害性の強い葉や花冠とそれ以外の種子等の区別が困難であることなどが理由です。
しかし、大麻を吸入するなどの使用行為には大麻所持が前提であり、さらに譲り受けた行為も推察されます。大麻の使用自体は処罰されなくても、関連する行為が犯罪に該当することを理由に逮捕・処罰される可能性があります。
2 大麻事件の特徴
大麻事件には、以下のような特徴があります。
⑴ 逮捕される傾向
大麻などの薬物事件では、トイレに流すなど証拠が容易に散逸されやすく、また共犯者との口裏合わせのおそれもあることから、逮捕・勾留による身柄拘束を受けながら捜査が進められるのが通常です。
令和2年版犯罪白書によると、令和元年における大麻事件の身柄率(逮捕され、その後も拘束される割合)は約62.6%でした。刑事事件全体における35.7%と比べると、逮捕、拘束される傾向が見て取れます。
⑵ 不起訴もあり得る
令和元年における検察庁全体の終局的処理区分別構成比では不起訴率は約63.5%であったのに対して、大麻事件では約44.9%、同じ薬物事件である覚醒剤の場合は約24.2%でした。刑事事件全体から見ると決して不起訴率は高くありませんが、覚醒剤事件と比べると不起訴になる可能性が残されているといえます。
ただし、どのようなケースでも不起訴処分が期待できるわけではなく、起訴猶予については、初犯であり、かつ大麻の所持量が少ない場合等に限定されています。
⑶ 執行猶予となる可能性が高い
起訴されると他の犯罪同様、ほとんどの場合有罪判決が下されることになりますが、大麻事件では刑の全部執行猶予率の高さが目立ちます。令和元年の覚醒剤事件における全部執行猶予率は37.0%であるのに対して、大麻事件では85.9%、刑事裁判全体(有期懲役・禁錮判決)の63.1%と比べてもその高さが顕著です。
執行猶予においても、起訴猶予と同様、初犯であることや所持量が少ないこと等が考慮されますが、営利目的がある場合には初犯であっても執行猶予は難しいでしょう。
3 大麻事件の弁護方針
⑴ 認め事件
被疑事実を認める場合は、おもに身柄解放と執行猶予付き判決という2点を軸に弁護活動を行います。
①身柄解放
・不起訴処分
大麻の単純所持の場合、微量であれば不起訴処分(起訴猶予)となる可能性もあります。その状況で事件化した場合には、直ちに逮捕回避や不起訴処分を目指す活動を行います。
また、譲渡・譲受容疑や共同所持容疑で家宅捜索を受けたが大麻は発見されなかったというような場合には、嫌疑不十分を理由とした不起訴処分の獲得を目指します。いずれの場合も事実の経緯や捜査態様について詳しくお話を伺った上で、取り調べ時の注意事項についてもアドバイスします。
・保釈請求
ほとんどの大麻事件では逮捕されるとそのまま勾留されますが、起訴後の保釈請求は通りやすいといえます。なぜなら、単純所持などの場合、証拠となる大麻自体は逮捕時にすでに押収されており、被害者もいないことから、組織犯罪が疑われる、あるいは、前科があり実刑の可能性が高いといった事情がない限り、証拠隠滅や逃亡のおそれが低いと判断されるからです。したがって、逮捕直後から、保釈請求に向けた準備を進めていきます。
・即時裁判手続き
罪を認める場合は、即決裁判手続きの利用を検討することもあります。
即決裁判手続とは、対象事件について、事案が明白かつ軽微であって、証拠調べが速やかに終わるなどの事情があるときに、原則として1回の審理で判決の言い渡しまで行う裁判手続のことです。申立て後14日以内に必ず執行猶予付き判決が言い渡され、その後直ちに解放されて早期の社会復帰が可能になります。
ただし、執行猶予付きといえども必ず有罪判決が言い渡されること、事実誤認を理由とする控訴はできないなどの不利益もあります。利用に際しては弁護士と十分に相談してください。
②執行猶予
大麻は覚醒剤ほど強くないにせよ、一定の依存性があり、また、覚醒剤への入り口という側面も否定できません。したがって、大麻をはじめとする薬物とはきっぱり決別するためにも薬物依存症の治療を優先させる必要があります。
また、大麻とかかわりのある人間関係を清算して、それを証明する証拠(携帯電話の番号変更等)を示すことや、入手ルートを包み隠さず摘示することも重要です。さらに、ご家族にも監督を協力していただき、環境面からも再発防止に向けた取り組みを行い、社会内で改善更生できることをアピールしていきます。
⑵ 否認事件
所持していた物が大麻であるとは知らなかったなど、犯罪の故意を否定するケースがあります。この場合にはどのような認識であったかが争点となるため、黙秘を貫くよりも、捜査機関に対して積極的に供述していくことになります。その際、供述調書に不利な内容が記載されないように、予め弁護士と念入りに打ち合わせる必要があります。
また、物的証拠が出やすい薬物事件では、行き過ぎた捜査の違法性を理由に、無罪を主張することもあります。しかし、どの程度の違法性でどのように抗議するかを見誤ると、裁判をいたずらに長期化させかねません。事案を見極めながら慎重に弁護方針を定めることになります。
4 まとめ
薬物事件は処分が軽く済めばよいというものではありません。もちろん、不当に重い処分を甘受すべきではありませんが、薬物依存から完全に離脱し、誘惑に負けない人生を手に入れるまで不断の闘いが続きます。
当事務所では依存症の専門家への橋渡しだけでなく、判決後の生活環境を整備することにも尽力しております。お早めにご相談ください。