盗撮、盗聴、のぞき
盗撮、盗聴、のぞき、どれも同じような犯罪に思えますが、それぞれ異なる法律によって規制されています。各犯罪の内容や付随する犯罪、そして、検挙された場合の弁護方針について解説していきます。
1 盗撮
盗撮は、各都道府県が定める迷惑防止条例によって規制されています。ここでは千葉県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」を例に解説します。
⑴ 行為
千葉県の条例が規制する「盗撮」とは、通常衣服で隠されている他人の下着や身体をカメラ等の機器を用いて撮影する行為、撮影する目的でカメラ等の機器を差し向け、もしくはこれらを設置する行為をいいます(第3条の2第1号)。
撮影のためにカメラを差し向ける、あるいは設置するというだけで、実際には撮影していなくても迷惑防止条例違反となります。
⑵ 対象
撮影の対象は衣服で隠されている下着や身体であり、他人の容ぼうを隠し撮りしても盗撮にはあたりません。
撮影する場所は、住居や、浴場、更衣室、トイレなど、通常、人が衣服を脱ぐような所はもちろん、それ以外にも、公共の場所や公共の乗り物、学校、事務所、タクシーなど、不特定又は多数の人が利用したり出入りしたりする場所や乗り物なども含まれ、広範囲に及びます。
⑶ 刑罰
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習犯の場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(13条)。
2 盗聴
盗聴とは、当人に気付かれないよう会話や音を密かに聞いたり録音したりすることをいいます。
倫理的な問題はさておき、盗聴自体は犯罪ではありません。盗聴の仕組みが「音を拾って(マイク)音を聞く(スピーカー)」というもので、用いる機器も日常的に使用されている物と変わりなく、これを犯罪として取り締まるのは困難であることが理由です。
ただし、通信の秘密(憲法21条2項)を保護する限度で、以下のように一定の規制がされています。
⑴ 電気通信事業法第4条
「電気通信事業者の取り扱い中に係る通信の秘密は侵してはならない」(4条)と定めており、固定電話や携帯電話等の電気通信サービスを提供する者は通信の秘密を守らなければなりません。違反すれば2年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処されます(179条)。
⑵ 有線電気通信法
「有線電気通信の秘密は、侵してはならない」(9条)としており、有線の電話回線に盗聴器を仕掛けて盗聴した場合には、2年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(14条)。
⑶ 電波法
「何人も…、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない」(59条)と規定しています。無線通信については盗聴器を仕掛けるだけでは足りず、その存在や内容を他に漏洩し、又は窃用してはじめて犯罪が成立します。刑罰は1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金です(109条)。
3 のぞき
迷惑防止条例では人の「下着又は身体」を盗み見ることを規制していますが、「場所」を盗み見ることについては軽犯罪法が規制しています。
⑴ 行為
軽犯罪法1条23号では、正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見る行為を禁止しています。
肉眼で目視するだけではなく、スマートフォンやカメラ等で撮影する際に、ファインダー越しに見る行為や映し出された映像を確認する行為も「のぞき見る」にあたります。
⑵ 対象
軽犯罪法が規制する窃視の対象は「場所」です。したがって「下から女性のスカートの内部を覗く」「上から女性の胸元を覗く」場合は軽犯罪法違反とはなりません。
これに対して、一定の「場所」を盗み見る行為があれば、たとえ内部に人がいなくても同罪は成立します。
⑶ 刑罰
違反した場合には、拘留(1日以上30日未満)又は科料(千円以上1万円未満)が科せられます。
4 付随する犯罪
盗撮、盗聴、のぞきをする際に伴う行為についても犯罪が成立する場合があります。
・他人の敷地内に無断で入る
建造物・住居侵入罪(3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)
・機材を取りつけるために家具や家電に傷をつけた
器物損壊罪(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料)
・相手につきまとう
ストーカー規制法違反(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
5 盗聴、盗撮、のぞきにおける弁護方針
⑴ 犯罪事実を認める場合
情状に関する弁護が中心となります。
①示談
魔が差して盗撮等を行ってしまったような場合には、被害者への謝罪はもとより、示談が重要です。被害者が警察に被害届を出す前であれば、示談を成立させることで刑事事件化することを防げる可能性があります。
また、被害届け提出後であっても、示談の成立は不起訴処分を導く上で有利な事情となります。盗撮等の被害者以外にも、侵入された建造物の管理者や毀損された家具の所有者といった別の被害者がいる場合には、それぞれについても示談を進めていきます。
②再犯防止
同様の犯罪を繰り返しているような場合や、犯行の手口が悪質(住居侵入を繰り返した上での盗撮等)である場合には、示談だけではなく、再犯防止に向けた積極的な取り組みを行う必要があります。
具体的には、被害者には二度と近づかないことを誓約してもらい、ご家族にも監督をお願いします。
また、盗撮やのぞきの原因として窃視症が考えられる場合には、心療内科での加療についての証拠を提出し、窃視症を克服することで改善更生の可能性があることを示します。
これらの活動によって検察官には不起訴処分を、裁判官には執行猶予処分を求めることになります。
⑵ 犯罪事実を認めない場合
逮捕されていない場合には、捜査機関側との面会や意見書を通じて逮捕の必要性がないことを伝え、逮捕の回避を目指します。逮捕勾留されている場合には身柄が解放されるよう勾留取消請求などの各種措置を執ります。
また、検察官が起訴することのないよう、嫌疑不存在や不十分を裏付ける証拠集めに尽力します。
起訴されて裁判となった場合には、被害にあったと主張する相手や目撃者の供述等の信用性を争って無実を主張していくことになります。
6 まとめ
当事務所では刑事弁護のみならず、再発防止に向けた取り組みにも力を入れており、ご相談者様の将来にも貢献できると考えています。ご相談を受けた時点で問題点を的確に抽出して、最善の弁護活動を行います。